中学1年生の担任は、人気のある先生でした。
親にも生徒にも。
「A先生でラッキー」という子が多く、わたしも話のわかりやすさや、その明るさは好きでした。
A先生は考えかたや生き方みたいなものを、よく語っていました。
「嘘はいけない」
「誤魔化すことなく正々堂々と生きよう」
みたいな話は何度もされたと思います。
ある日、家に帰ると母が言いました。
「あなた何かしたの?」
「え?何かって?」
「学校で何かあったの?」
「何かって?」
「・・・」
なかなかハッキリ言わない母にしつこく聞いてみると、A先生から呼び出されたと。
「娘さんには内緒にしてください」
「非行の件で」
と言われたそうです。
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A先生に「内緒で」と言われたので、母は呼び出されたことはわたしに言わないで、様子だけ聞こうと思ったそうです。
特に思い当たることもありませんでした。でも母が「娘さんに内緒で」と呼び出されたということは、何かA先生に思うところがあったということで、とても気になりました。
気になりました。
気になりました。
「思い当たることがないならいいのよ」
と、母は言いました。
気になっているうちに、母がA先生に会う日になりました。
気になりましたが、母はその後そのことについて何も言いませんでした。
わたしも母に聞けませんでした。だって良いことだったら、尋ねなくてもきっと母は言うでしょうから。言わないってことは何か良くないことを言われたに違いありません。
「きっとA先生が学校でわたしに言うだろう」
と思いました。
ところがその後A先生に何かを言われることはありませんでした。A先生はその後も「こそこそするのは卑怯者」「言えないことならやるな」みたいなことを言っていました。
それからA先生にたいしてわたしの見方が変わりました。
見方が変わってみると、A先生の発言と行動には食い違いがたくさんあることがわかってきました。クラスに少数ではありましたが「A先生は信用できない」と思っている子がいることもわかりました。
影でこそこそやっているのは誰なのか
誰が卑怯者なんだ
その後、卒業までA先生とはいろいろあって対決もしたのですが(信用ならない嘘つき野郎だと思ってました)なぜ母を呼び出したのかはわからずじまいでした(今なら「アレかな?」って思うことはある)。
後年、母に聞こうと思っていました。でも、そんなことを聞いてどうする?ということもあって、何年も聞くことがありませんでした。
一度A先生の話が出たときに軽く聞いてみたのですが「えー?何?そんなことあったっけ?」と言われ、それは母が話をはぐらかしたのだと思いました。
そして、今年の正月です。
ちょうど中学の頃のことが話題に出たので聞いてみました。
「A先生に呼び出されたのって何だったの?」
「え?そんなことあった?」
「あったじゃーん。娘さんに内緒で、って」
「え?他のきょうだいの話じゃなくて?あの子はよく先生に怒られていたけど、あなたは呼び出されるようなことしてないでしょ?」
「いや、わたしだよ。A先生だもん」
「呼び出されるようなことしたの?」
「してないよ。そういえば、その時もそう言ってたよーーーで、何だったの?」
「全然おぼえてないわ」
もっと早く聞けばよかったーーーーー(>_<)
母が死ぬ前に聞いておこうと思ったけど
遅かったーーー
母、忘れてたー
今週のお題「これって私だけ?」
この話にオチはありません。
ソロモンの偽証を見て、中学生のこの件にまつわるいろいろなことを思い出したので。
今日はここまで。
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