「あつあつを召し上がれ」は短編集です。7つの短編が収録されています。著者は小川糸。「食堂かたつむり」と言えば一番わかりやすいでしょうか。
食に関する描写にこだわり、巧みに描き出す人は、食べることがとても好きなのだろうと想像しています。よしながふみしかり。生きていく毎日の食に関することに異常に興味があるのではないかと。
そうでなければ、あんな風に料理をいきいきとは書けません。きっと。いや、そんなことないかな。おいしくなくても、観察眼と取材と筆力があれば書けちゃうのかな。おいしくなくてもおいしそうに書けちゃったりするかな。
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食に関する描写が丁寧な筆者は、1つの作品だけでなく、他の作品でもおいしそうなお料理がごちそうを作品のあちらこちらに並べてくれることが多いです。
で、「あつあつを召し上がれ」です。
短編が7つくらいあると、大抵の場合は「この話は今ひとつだな」と思うお話があります。ひどい場合は半分くらい「へーそー」と思う話が。
幕の内弁当のように。
適当に買った安い幕の内弁当の中には「これはあまり好きじゃないな」「これはなくてもいいわ」と思うものが入っています。半分くらい別に食べたくもないおかずだったりします。好みでないおかずが多ければ多いほど「ああ、これなら幕の内じゃなくて牛肉時雨弁当にしておけばよかった」と思います。
口に合わない少しずつのおかずで、冷たく固まったご飯を食べるなら、何かに特化した弁当のほうが好きです。牛丼でいい!そして温かいご飯のほうが。短編集にはどうしてもこういうイメージがあるのです。これがわたしが短編集を好まない理由です。だがしかし、これも何度も書いていますが、グルメ小説で長編はなかなかお目にかかれません。
この「あつあつを召し上がれ」は、幕の内弁当ではなくて小鉢が並んでいるランチです。手に取りやすく食べやすくお手頃価格で、それでいて、ちょっと手がこんでいて見栄えもいい。そんな小鉢が7つ並んでいます。
小鉢の中をのぞくと「ああ、これはわたしちょっと、うーん」と思うものもあるのですが「まぁ、残すのもなんだから」と、口に入れてみると「あら。不思議な味がしておいしい」「こんな味だったのか~」とおいしくいただけてしまいます。
という、7品。
バーバのかき氷
前菜。かき氷だけど前菜。色彩豊かな前菜です。
親父のぶたばら飯
これはどっしりとメイン。お話的には別に大きな展開があるわけではありませんが、グルメ小品としては秀逸なエピソード。食べたい。そのフカヒレスープとぶたばら飯食べたい。なんならプロポーズされたい。
さよなら松茸
しっとりと大人の情感。ああ、こういう旅をしたい、いや寂しいからしたくない、いやしたい。採りたてのタケノコとか松茸とか能登牛、食べたい。
こーちゃんのおみそ汁
いまは母もこだわりがないですが、わたしも味噌汁は小学生の時から作っていました。出汁は煮干しか自分で削った鰹節。または両方←Wスープだっ!ああ、丁寧に作ったおいしい味噌汁飲みたいな。やっぱりかき玉汁で。
いとしのハートコロリット
多少想像はできたものの、一番残ったかも。胃もたれじゃなくて心に。ああ、そうやって歳を取っていく。歳を重ねていくうちにそんな風になっていく、ということが、親や親族や周りの人を見ていて人ごとではないからかしら。上品なおばあさまの素敵なランチと現実。
ポルクの晩餐
これよ。これ。「えーちょっとこれはいらないかも」と思った作品。でも食べたらこれがおいしいの。印象に残るの。不思議な不思議なお味なんだけど、癖になるの。
ポルクは主人公の恋人ですが豚。ポークです。ポーク。お行儀よくパリのレストランでお食事したりしちゃいます。え?わたし?自分を投影したかな。
季節はずれのきりたんぽ
最後の椀ものです。
さっぱりと。
◇
みんなはどれが一番おいしい(おもしろい)と思ったのかなぁ。
今日はここまで。
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